ダッフルコート

冬が好き。でも寒さには弱い。寒い冬でも活動的になるには、信頼できる相棒ーーどんな寒さからでも身を守ってくれるコートが必要不可欠だ。

コートを買おうと思い立ったのは大学2年生の冬。高校生のころ地元のアウトレットで母に買ってもらったダッフルコートは、それなりに気に入ってはいたものの、少々子どもっぽいと感じていた。この冬は絶対新調するぞと決意し、さっそくファッション誌で理想のコートを探し始めた。

わたしの買い物は、頭のなかにすでにある理想形にいちばん近いものを探す旅だ。理想のコートは案外簡単に見つかった。ロング丈のシンプルなダッフルコート、色はネイビー。コートはベーシックなデザインが比較的多いので助かる。

ブランドが無事に決まり、用事のない放課後にお店に見に行った。まだクレジットカードを持っていなかったので、大金を握りしめてどきどきしながらお店に向かった。

ところが実際に手にとってみると、理想とは少し違う。絶対に今日新しいコートを買うつもりだったのに。がっかりしてお店を出た。

諦めきれずお気に入りのお店を何軒かうろうろしていたら、理想に近い形のコートに出会った。でもネイビーがない。店員さんに尋ねると、人気の色なので売れてしまったとのこと。がっかりしていたら、調べてほかの店舗に在庫があると教えてくれた。取り寄せることもできるという。

とりあえずお店にあったコートを試着してみると、少し大きい。店員さんはいま手元には大きいサイズしかないが、このコートはサイズが2つあって、わたしには小さいほうが良いだろうと言った。「小さいサイズのネイビーをお取り寄せしましょうか?」

サイズ感もわからないし、好きな色味かどうかも不安だったけれど、とりあえずお願いすることにした。なんとしてでもこの冬は新しいコートを買いたい。

後日コートが届いたと連絡があり、お店に見に行くと、そこには理想のコートがあった。濁りのない鮮やかな暗いネイビー、着てみるとサイズもちょうど良い。あまりに嬉しくて着て帰りたいと伝え、ブラシをかけてタグを切ってもらった。そのまま着せてもらってお店を出た。

ガラス張りのショーウィンドウに映るじぶんの姿を見て、なんて素敵なコートなのだろうとうっとりした。人生で初めてじぶんで買ったコート。すこし硬くて重たくて、冷たい風からも雨からも守ってくれる。その冬からわたしの大切な相棒になった。

コートは定期的に毛玉をとりブラシをかける。本当は毎日やらないといけないけれど、ズボラなのでなかなか続かない。そのかわりにお休みの日はしっかりケアをする。

贅沢なものは手がかけられているものだと聞いたことがある。それは作られる過程はもちろん、持ち主がケアする手間も含まれると思う。どんなものでも大切に手をかければ、それだけ贅沢なものになるのだ。ブラシをかけ終わったあとの、つやつやと輝くコートを見ると、ますます愛おしく感じられる。これからも末長くよろしくね。